ピーテル・ブリューゲルが描いた「バベルの塔」は2つあります。
その大きさから、ウィーン美術史美術館所蔵の「大バベル」と呼ばれる作品と
オランダのボイマンス美術館所蔵で「大バベル」の半分くらいの大きさの「小バベル」があります。
ここでは、「大バベル」を取り上げて解説しています。

「バベルの塔」の詳細をじっくりと見てみましょう。
⇧をクリックするとGoogle arts & Cultureにジャンプします!
ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』の構図と描かれた世界

田園風景が広がる街並みの奥には、城壁が見えますね。
ここはまさに、城壁に囲まれた港町です。
中世の趣あふれるフランドル風の港町が描かれ、港や働く人々の姿が細やかに表現されています。
人々の大きさと比べることで、塔の圧倒的なスケール感が伝わってきますね。
バベルの塔は、大きな岩盤を基礎にして建てられています。
こうすることで建物はより安定し、さらに高く積み上げることができるのです。

手前の石切り場で切り出された石材は、一度港に運ばれ、人力のクレーンで塔の上へと引き上げられていきます。
このクレーンは、人が中で回転し滑車を動かす、いわば「人間ハムスター車」のような仕組みです。
塔の規模があまりにも巨大であるため、多くの人々は塔に居住しながら建設に携わっているようです。
火をおこして食事の支度をする人や、洗濯をしている人の姿まで描かれ、この塔の中での労働と生活の一体感が生き生きと伝わってきます。

バベルの塔を築こうとした人物とは?
では、この壮大な塔を建てようとしたのは誰でしょうか?
バベルの塔は、城壁で囲まれた、この港町を治める領主ニムロデによって建設されていました。
彼の周囲には、富をむさぼり、こびへつらう従者たちが集っています。

よく見ると、従者たちの顔は、まんまるに描かれています。
これは、ピーテル・ブリューゲルによる痛烈な皮肉です。
顔がパンのように丸い=領主に取り入り、富をむさぼる人々の象徴なのです。
領主ニムロデが姿を現すと、石切り場の人々は仕事の手を止め、皆そろって彼に頭を下げます。それは「挨拶」というよりも、むしろ拝礼に近い姿です。

バベルの塔はなぜ神の怒りにふれたのか?
旧約聖書『創世記』には、『天にも届く高い塔を造ろうと神に挑んだ 愚かな行為が神の怒りに触れた』と記されていますが、この作品で神がお怒りになったのは、↑上の場面です。
本来、人々が手を合わせるべきは神であるはずなのに、愚かな人間たちは、傲慢なニムロデを拝んでいる。
この倒錯した光景にこそ、神の怒りが注がれました。

その兆しとして、画面左上の空には暗雲が垂れ込め、まさに天罰の予兆を示しているのです。
旧約聖書『創世記』によると、神は人間の傲慢を戒めるために言葉を乱し、互いに意思が通じないようにされました。
その結果、人々は世界中に散らされ、バベルの塔の建設も中止されることとなります。
この出来事があった場所は、ヘブライ語のbalal(混乱)に由来し、「バベル」と呼ばれるようになりました。
現在のイラク南部、ティグリス・ユーフラテス川流域のメソポタミア地方 のあたりだといわれます。
この作品の中には、ピーテル・ブリューゲルならではの遊び心が隠されています。

「傲慢なニムロデにひれ伏す愚かな人々」に、「神の怒りが迫る」という緊張感のある場面ですが、その視線を少しずらしてみると、塔の向こうで休憩する人々の姿が見えてきます。
その中には、思わず微笑んでしまうようなユーモラスな光景も隠されているのです。
見つけることはできましたか?
鑑賞者の視線が自然と集まるその場所に、巧妙に仕掛けを忍ばせたブリューゲル。
あなたなら、この遊び心にどんな意図を読み取りますか?
ピーテル・ブリューゲルの作品は、物語性が高く想像する楽しさがありますね。私は、対話型鑑賞のワークショップで、よく使わせていただいています。