レオナルド・ダ・ヴィンチ「ラ・ベル・フェロニエール」|愛妾たちと肖像画

ラ・ベル・フェロニエール

愛妾たちと肖像画の真実

「ラ・ベル・フェロニエール」のモデルは誰か

この肖像画は、ミラノ公ルドヴィーゴ・イル・モーロの二番目の愛妾であったルクレツィア・クリヴェッリを描いたものではないか、という説があります。

ルクレツィアは、最初の愛妾がロンバルディア地方へ嫁ぐためミラノを去った直後に、イル・モーロが心を奪われた女性でした。

公妃ベアトリーチェ・デステが、前の妾がいなくなったことで、ようやく心の平穏を得たかのように思えたのも束の間で、夫はすぐに新しい愛人を見つけたという状況でした。

ベアトリーチェ・デステの肖像スケッチ(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたベアトリーチェ

しかも今度の女性との関係も堂々としたものでした。

この作品「ラ・ベル・フェロニエール」は、ミラノ公国のスフォルツァ宮廷で描かれたものです。

この肖像画で描かれている衣装は、当時のミラノ公国で流行していたスペイン風の衣装です。

ルドヴィーゴ・イル・モーロが、彼女に贈ったものでしょう。

この愛妾ルクレツィア・クリヴェッリはイル・モーロとの間にジョヴァンニ・パオロという名前の息子を一人出産しています。

私生児ですが、この子はのちにカラバッジョという町の侯爵となりました。

《ラ・ベル・フェロニエール》(レオナルド・ダ・ヴィンチ)

最初の愛妾チェチリア・ガッレラーニと「白貂を抱く貴婦人」

白貂を抱く貴婦人(レオナルド・ダ・ヴィンチ)
白貂(しろてん)を抱く貴婦人

この作品の前に描かれたのが、1人目の愛妾を描いた「白貂を抱く貴婦人」です。

この肖像画のモデルとなったのは、ミラノ公イル・モーロが夢中になったチェチリア・ガッレラーニという16歳の女性です。

教養深く上品で美しい彼女は、ミラノの宮廷詩人によってその魅力をさらに多くの人々に知らしめた存在でもあります。

イル・モーロは、愛妾チェチリアに夢中になり、無神経なことに、公妃と同じドレスを贈っていたようです。

これに対し公妃は、チェチリアに「公の場では、私と同じ衣装を身につけないでほしい」と頼んでいだことが記録として残されています。

ミラノ公ルドヴィーゴ・イル・モーロを夢中にさせた彼女には怖いものはありませんでした。

チェチリアは、ミラノ公との間に子ども(チェーザレ・スフォルツァ)を一人出産しています。

その後、彼女は、ミラノ公の取り計らいにより、イタリア北部・ロンバルディア地方のサン・ジョヴァンニ・イン・クローチェという地域の領主ルドヴィーゴ・カルミナ―ティに嫁ぎました。

レオナルド・ダ・ヴィンチの表現と工夫

絵の中に引き込まれるレオナルド・ダ・ヴィンチの技法

《ラ・ベル・フェロニエール》の視線の部分(部分図)

「ラ・ベル・フェロニエール」のルクレツィアの視線は、絵を観る私たちの背後へと静かに向けられています。

わずかに身をひねりながら、その眼差しには意志があって、何かを見つめているようです。

まるで私たちの後ろで、何か重要な出来事が起こっているかのようにも感じられます。

彼女はその不可思議な成り行きを、案じるように見守っているのかもしれません。

そうして私たちは、彼女の表情や澄んだ瞳を見つめるうちに、いつの間にか絵の中に引き込まれているのです。

革新的な影の描き方

《ラ・ベル・フェロニエール》の頬の部分(部分図)

ルクレツィアの肖像画の左の頬をじっくり観てみましょう。

彼女が来ているドレスの色が反射して、頬が赤く染まっています。

この「影に色を使う手法」は、まだこの時代ではレオナルド・ダ・ヴィンチにしか見られません。

西洋美術の歴史を見ても、ずっと後になって印象派の画家が取り入れています。

一瞬のしぐさを永遠にとどめた絵

レオナルド・ダ・ヴィンチの彫像

レオナルド・ダ・ヴィンチは、このように語っています。

「画家というものは、主にふたつのことを書かなければいけない。人物とその人物が心に抱いている者である。前者は簡単だが、後者は難しい。なぜなら、心の内をしぐさや動作によって表現しなければいけないからである。」

「ラ・ベル・フェロニエール」も「白貂を抱く貴婦人」も、体のねじれと視線の行く先を反対方向に向ける工夫が画面の中に緊張感を持たせているというわけです。

まとめ/「ラ・ベル・フェロニエール」が放つ永遠のまなざし

「ラ・ベル・フェロニエール」は、単なる宮廷女性の肖像にとどまらず、権力者の愛妾という立場に置かれた女性の複雑な内面と、時代の緊張感までもを映し出しています。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、わずかな身ぶりや視線の方向に「心に抱いているもの」を託し、一瞬の心理を永遠のかたちとして画面に定着させました。

この肖像が今なお私たちの視線を引き寄せてやまないのは、人物の姿だけでなく、その奥に潜む思考や感情までもが、静かに語りかけてくるからなのでしょう。

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